製造業のDXとは?事例も交えてわかりやすく解説
ビジネスにおいて、データやデジタル技術を取り入れて業務効率化などをはかる「DX」は業界問わず注目を集めており、製造業においても、人手不足への対応や属人化の解消などを目的として推進が薦められています。しかし製造業におけるDXには課題もあり、解消に向けた取り組みを進めていかなければなりません。今回は製造業のDXや具体的な事例について解説します。
目次
そもそもDXとはなにか
DXとは「デジタルトランスフォーメーション」を略した言葉で、具体的には「企業がITをはじめとしたデジタル技術を業務に応用し、市場のなかで競争力を引き上げること」を指します。
技術革新のスピードが速まっている現代において、企業が市場で生き残っていくためには単にデジタル技術を活用するだけでは十分ではありません。自社の商品やサービスとデジタル技術を掛け合わせて、新たなビジネスモデルそのものを次々と生み出していく必要があるといえるでしょう。
そのためには組織全体がデジタル技術への理解を深め、アナログからデジタルへと徐々に移行していくことが求められます。
製造業が抱えている課題
近年、製造業全体がさまざまな課題を抱えています。ここでは、主な3つの課題について解説します。
現場主導の側面が強く属人的
日本における従来の製造業のビジネスモデルは現場手動の側面が強く、属人的な面が大きいといえます。実際、現場の人材が主導となって「人の力」を軸に置いた現場主義的なビジネスモデルを展開し、国際的にも高い競争力を保ってきました。
しかし世界中でデジタル技術を積極的に取り入れるようになった現代において、このような現場主導のビジネスモデルのみでは世界に対する競争力を維持できなくなってきていると考えられます。
もちろん人の力は重要かつ大切ではありますが、日本の製造業もデジタル技術によって業務効率化をはかるとともにコスト削減を達成し、競合他社に負けない競争力を身につけていく必要があるといえます。
加えて、少子高齢化に伴う人材不足や、長年利用し続けてきた設備の老朽化なども製造業における悩ましい課題となっています。現場手動のビジネスモデルが続けられてきたために属人化が進んでおり、人材が不足しているにもかかわらず効率的にリソースを活用できていない組織が数多くあります。このような属人化を解消するうえでも、DXの推進が求められています。
製造業を取り巻く状況の変化
近年、製造業取り巻く状況が目まぐるしく変化しています。
社会情勢の変化により、製造業の売上高や営業利益は低迷傾向にあるとされています。今後もしばらくこうした状況が続いていくと見られており、当面製造業全体の回復はまだ時間がかかるといえるでしょう。
多くの企業や組織は見通しが不透明ななかで自社の設備投資を検討する必要に迫られ、このことがさらに前述の「設備の老朽化問題」に拍車をかける可能性があるといえます。
加えて、社会情勢の変化によって製造業の営業活動も今まで通りとは言えない状況が続いています。将来再びこのような事態に見舞われたときのためにも、自社だけでなく世界全体のサプライチェーンを最適化して、情勢の変化に柔軟に対応しながら事業を継続できる環境を構築することが必要とされています。そのためには組織のDX化を推し進めて、社会の変化に強い製造業を構築していかなければなりません。
デジタルに強い人材が少ない
「日本の製造業の現場にはデジタルに強い人材が少ない」傾向にあるという点は、将来的に製造業の大きな課題となり得るでしょう。
前述のように、従来製造業は現場手動のビジネスモデルを展開してきました。「人の力」に頼る経営を続けてきたことで、企業だけでなく業界全体がアナログな手法に慣れてしまっており、デジタル技術に対して抵抗感をもつ人も少なくありません。
そのため「DXを推進していかなければならない」ことはわかっていても、デジタル技術への抵抗感が現場への新たな技術の導入を妨げてしまったり、担当者でもDX化を推し進める方法がわからずに放置してしまったりといった事例が頻繁に起こります。
「DXとはどのような考え方なのか」をわかりやすく取りまとめて組織に向けて発信し、DXの必要性を組織全体に理解させたうえで、適切にデジタル化を進めていける人材を育成する必要があるといえるでしょう。
製造業でDXが注目されている理由
ここまでお伝えしてきたように、製造業はさまざまな課題を抱えています。これらの課題によって将来的な成長性が不透明な状況となっており、従来の現場主義によって国際的な競争力が衰えていくリスクも考えられるでしょう。
加えて少子高齢化は改善の兆しが見えず、今後も労働人口は減少し続けていくといわれているなかで、企業は「どのように売上を立てていくか」を検討する必要があります。
多くの課題を解決するためには、これまでの現場主義的な考え方に固執するのではなく、デジタル化を推進してビジネスモデルを大幅に展開していくことが求められます。現場にデジタル化を取り入れて業務効率化をはかり、労働人口が減少していくなかでもこれまでと変わらない競争力を手に入れる必要があるといえるでしょう。
さらにDXを推進することで社内におけるデータの活用が進み、さまざまな情報を共有することで属人化の解消をはかることも可能になります。
現場主義的な運用は従業員一人ひとりに大きな負担をかけ、「あの人でなければ業務がわからない」という状況を生み出します。担当者が不在になると業務全体がストップしてしまうリスクを避けるためには、組織全体で多くの情報を共有し、誰であってもスムーズに対応できる環境を構築する必要があるといえます。
デジタル化を取り入れてDXを推進すると生産性や品質が向上するだけでなく、リードタイムを短縮させたり現場の従業員の負担を軽減させたりする効果も期待できるでしょう。製造業が抱える将来的なさまざまな課題を解決していくための足がかりとして、DXが注目されていると考えられます。
製造業のDXを推進するための3ステップ
製造業のDXを推進していくために、実際にどのような取り組みを進めていけば良いのかわからないという方も多いのではないでしょうか。そこでここでは、製造業のDXを推進するうえでおさえておきたい3つのステップについて解説します。
1.現場の声を取り入れながら完成図をイメージする
製造業のDXを推進するにあたって重要なのは、「現場の声を取り入れながら完成図をイメージすること」です。経営層が現状を理解せずにトップダウンでデジタル化を指示したとしても、実態とかけ離れているために現場で受け入れられずにDX化が失敗してしまう可能性があるためです。
まずは現場で働く従業員からも入念にヒアリングを行い、現状をよく理解したうえで「どのようにDXを進めていかなければならないのか」といった方針を定める必要があります。ヒアリングを行うことで、現場の従業員にも「自分もDX推進に参加している」という意識を芽生えさせる効果も期待できます。
経営層が一方的にDX化を指示するのではなく、組織全体がDX化の必要性を理解したうえで一丸となって推進していくことが大切です。
現場の声を拾い上げて自社にどのような課題があるのかを理解できれば、適切なDXの戦略を考案することが可能になり、完成までのロードマップを描けるようになるでしょう。
2.必要な人材とデータを確保する
続いて、DX推進のために必要な人材とデータを確保する必要があります。
「自社にとってどのようなDXが必要なのか」といったイメージを具体化できたら、完成図にたどりつくためにどのような人材やデータが必要なのかを洗い出しましょう。自社の人材をDX推進に向けて育成したり、場合によっては外部から専門性の高い人材を招へいしたりすることが考えられます。
さらに、社内外のデータを積極的に収集・分析して市場のニーズを捉えることも大切です。「自社の顧客が求めているものはなにか」を的確に理解することによって、ニーズを満たしながらより品質を高められるうえに、効率的にものづくりを行うことが可能になるためです。
3.業務効率化をはかる
DX推進のために必要なデータと人材が揃ったところで、一度現行の業務を俯瞰的に見直してみましょう。
今までは当たり前だと思っていた業務であっても、客観視してみると実は不要な業務であることが判明したり、より効率的な進め方が見つかったりすることは少なくありません。非効率な業務を見直して、デジタル化も取り入れながら改善していくことが重要です。
DX化によって業務効率化をはかる際、初めの段階ではコアな部分は変更しないことをおすすめします。現場の根幹にかかわる部分を十分な準備がないままに変更すると、現場が混乱して業務の進行に支障が出る可能性が高いためです。
まずは万が一失敗してもそれほど影響が大きくなりすぎない部分から進めることで、組織全体への影響を最小限に抑えながら着実にDXを浸透させられます。
製造業で注目されているトレンド
現在、製造業では主に3つのトレンドが注目されています。
ここでは、スマートファクトリー、サービス化、プラットフォーム化のそれぞれのトレンドについて解説します。
スマートファクトリー
スマートファクトリーとは、「デジタル技術を用いてデータ活用を推し進め、生産性を高めた工場」のことです。
より具体的にはAI技術を積極的に取り入れて社内外のあらゆるデータを分析することで、自社にとって効率的な製造ラインを構築することを指します。
データを活用して生産を効率化すれば材料の利用効率が向上し、資源の無駄を最小限に抑えて生産できるため製造コストを下げられます。さらにAIによる正確な生産体制の構築によって不良品の発生率も低下させられることから、品質向上が期待できます。これによって顧客満足度が高まるとともに、企業の利益率改善にもつながるでしょう。
製品を販売した後のデータを分析し自社の顧客のニーズを捉え直すことで、よりニーズに近い製品を開発することも可能になります。
サービス化
サービス化とは、自社製品を単に販売するだけでなく、製品を活用したサービスを立ち上げて提供することにより製品に付加価値を付与するビジネスモデルのことです。
類似した製品を販売している競合他社と差別化をはかるために効果的な戦略であり、他社に対して優位性を獲得しやすくなると考えられています。
例えば単に冷蔵庫を製造して販売するだけであれば、顧客からはただ「食品を冷却する家電」として捉えられるでしょう。そこでこの冷蔵庫にスマートフォンのアプリを組み合わせ、ネットワークに接続させることで「外出先からでも残りの卵の数を把握できる」などの付加価値を与えれば、他社に比べて優位なサービスを提供できます。
プラットフォーム化
プラットフォーム化とは、IT技術を用いて製品を製造するための基盤を構築することで生産を効率化する手法のことです。
生産を効率化できればリードタイムが短縮されるため、お客様のもとへ商品を素早く届けたり、生産コストを削減しながら高品質な製品を生産したりすることが可能になると考えられます。
製造業におけるDXの事例
近年、製造業ではさまざまなDXの推進に向けた取り組みが行われています。ここでは、具体的なDXの事例についていくつかご紹介します。
株式会社クボタ
農機や建機を製造して世界に販売している株式会社クボタでは、3D技術とAR機能を応用してアプリで故障診断を行うサービスを提供しています。
定量的な故障診断のフローを提示されることで、顧客は感覚で「故障したかどうか」を安易に判断するのではなく、正確な故障診断を行えるようになります。これによってダウンタイムの削減が期待でき、稼働率低下を最小限に抑えられるというメリットが考えられるでしょう。
故障診断はアメリカで特にニーズが高かったことから、アメリカを主軸として開発・提供が行われています。
トヨタ自動車株式会社
トヨタ自動車株式会社では、社内で保有している3D CADデータ等を一元管理できるDXを推進しました。複数の部門間で情報を共有できるプラットフォームを構築することで、顧客データや製品の製造データをタイムリーに確認し社内の情報資産を有効活用することを目的としています。
さらにトヨタ自動車株式会社のプラットフォームでは高いセキュリティを実現しており、外部と接続されることによる情報流出などのリスクにも対応しています。
複数部門で手軽に情報共有が行えるようになったことから、費用対効果が向上するという成果があらわれています。
株式会社LIXIL
国内最大規模の建材・設備機器開発を行うLIXILでは、音声だけで玄関ドアを開け閉めできる「DOAC(ドアック)」というサービスを提供しています。アプリを利用した音声操作が可能であり、ドアに触れることなく自動的に玄関を開閉できるのが特徴です。
DOACは衛生面が気になる場合に役立つだけでなく、手が不自由でドアを開け閉めすることが難しい人にとっても便利だといえます。バリアフリーの観点からも、期待がもてるDXであるといえるでしょう。
株式会社今野製作所
今野製作所では、自社の連携体制を見える化するための「プロセス参照モデル」というモデルを作成し業務に活用しています。具体的には、業務プロセスを最適化するために専門家のサポートを受けながら小規模なシステム開発を実施し、社内の業務効率化をはかりました。
現場でどのような課題があるのかを明確にしたうえであえて初めは大規模な展開をせず、スモールスタートを切ったことで高い成果を上げているDX事例です。
富士通株式会社
富士通では、「人に依存しない開発プロセス」を実現するためのプラットフォーム開発を行いました。これにより製品開発で蓄積されたノウハウを従業員同士が共有しやすくなったり、リアルタイムにコミュニケーションを取ることが可能になって円滑な職場環境が構築されたり、といった成果につながっています。
製品が増えたことによる、ノウハウの共有や属人化における課題も解決につなげることに成功しています。
ダイキン工業株式会社
ダイキンでは、「工場IoTプラットフォーム」という大規模な情報基盤の開発・運用を行っています。大阪の堺市に「デジタル・ファクトリー」と呼ばれる新たな工場を建設し、製造現場のデータを収集・統合したうえで、データの可視化と分析を行って工場の運用効率化と高度化を一挙に実現しました。
工場のあらゆる設備はネットワークで接続されており、海外拠点とも連携されることでグローバルな活用が進められています。
まとめ
DXの実現は、アナログな現場の多い製造業にとって大きな課題だといえます。今回ご紹介した4つのステップも参考にしながら、徐々に社内のDXを推進していくことが大切です。
DXの進め方に悩んだ場合には、大手企業のDX事例を参考にすることをおすすめします。各社がさまざまな取り組みを行っているため、自社に活用できる事例を探してみると良いでしょう。