LTV(Life Time Value)って何!?基本知識と算出方法についてご紹介
近年、「LTV」という言葉を耳にする機会が増えました。世界中の企業が注目しているLTVですが、その実態を知らないマーケティング担当者は少なくありません。事業の収益率を左右する重要指標でありながら、完全には浸透していない印象を受ける方も多いのではないでしょうか。そこで今回は、LTVの基礎知識や具体的な算出方法に加え、LTVを最大限に高めるポイントをご紹介します。
目次
LTVとは
LTVは、「Life Time Value」を略したマーケティング用語で、1人(または1社)の顧客が生涯にわたってもたらすトータル利益を指します。顧客志向の営業・マーケティング活動に欠かせない指標で、営業・マーケティング活動の新規顧客獲得のトータルコストである顧客獲得費用(CAC / Customer Acquisition Cost)、マーケティングの広告施策における新規顧客獲得コストである顧客獲得単価(CPA / Cost Per Action)の上限金額を把握する際などに用いられます。
一般に顧客ロイヤリティの高い企業ほど、LTVも高い傾向にあります。
例えば、既存顧客のAさんが月額5,000円のサブスクリプションサービスを契約するとします。有料会員の平均契約期間が12ヶ月である場合、契約期間中には「5,000円×12ヶ月=60,000円」の売り上げが発生します。仮にAさんの顧客ロイヤリティが高ければ長期契約に繋がり、12ヶ月以降の売り上げも期待できます。
このように、長期的に自社にもたらす利益を予測するのがLTVの本質です。ただし、上記の算出式は極めて簡易的なものとなります。正確にLTVを算出するには、売上原価・粗利率・解約率など、toC系商材については、購買頻度・継続購買期間なども考慮しなければならないケースもあります。
なぜLTVが注目されるようになったのか?
LTVが注目されている背景として、国内市場の成熟化が挙げられます。国内市場には膨大な商品が溢れ、さらには競争の激化、顧客ニーズの多様化が進んでいます。このような状況下において、従来のマーケティング施策のみで新規需要を促すことが難しくなりました。
国内市場の成熟化にともない、新規顧客の獲得コストが肥大化しています。これは米国のコンサルティング会社ベイン・アンド・カンパニー名誉ディレクターである「フレデリック・F・ライクヘルド」氏が提唱した“1:5の法則”からも見て取れます。
“1:5の法則”とは、既存顧客の維持費用を1とすると、新規顧客の獲得費用は5、つまり5倍に膨れ上がるという法則です。
この法則を受け、マーケティングの費用対効果の側面で考えるならば、新規顧客の獲得に比べ、少ないコストで多くの利益が得られる既存顧客の維持が優先度高く最も重要視されるべきと映ります。
しかしながら、企業が事業を拡大していくためには、将来的な利益をもたらす新規顧客の獲得も疎かにはできません。既存顧客維持と新規顧客獲得をバランス良く行っていくためにも、将来的な見込み利益であるLTVを基準として、それに見合う新規顧客獲得のための費用を算出し、投資する動きが行われてきています。既存顧客の長期契約やリピート購入を通じてLTVが高まれば、それだけ積極的な新規顧客獲得のための投資を行えるという好循環が期待できますので、近年はLTV向上を目的にさまざまな取り組みを行う企業が増えています。
LTVの算出方法とは
LTVの算出方法は、扱う商材の特性や販売方法によっても異なってきます。
以下にて、一般的な算出式のいくつかを紹介していきます。
1.月額課金系商材
LTV = 1顧客あたりの月間平均売上(*1) × 売上総利益率 × 平均継続期間
(*1)顧客あたりの月間売上
toBビジネスであれば、顧客あたりの月間売上を表すARPA(average revenue per account)。toCビジネスであれば、ユーザー1人あたりの月間売上のARPU(average revenue per user)が使われるようです。
例えば、平均月額単価を50,000円、売上総利益率を80%、平均継続期間を60カ月とした場合、算出式は、「50,000円 × 0.8 × 60 = 2,400,000円」となります。将来的に1顧客あたりから、およそ240万円の売り上げを期待できます。
2.物品購入のように断続的に購買が発生する商材
LTV = 顧客の平均購入単価 × 平均購入回数(購買頻度) × 継続購買期間(*2)
(*2)継続購買期間
単年で算出する場合もありますが、毎月1回購入するような定期購買の商材は、3年や5年など平均的な継続期間を算出の際に含める場合もあります。
例えば、年平均顧客単価を3,000円、購入頻度を年5回、継続購入期間を3年と仮定した場合、算出式は「3,000円 × 5 × 3 = 45,000円」となります。将来的に1人あたりから、およそ45,000円の売り上げが期待できると考えます。
LTVの活用例
LTVは、さまざまなデータ分析に活用できます。代表的なものには、先述した新規顧客獲得費用の上限予算の設定があります。例えば、SaaS業界では、LTVは顧客獲得単価(CAC)の3倍であることが理想的であると言われています。そのため、LTV / 3 で理想的なCACの値を算出し、このCACの範囲内での営業・マーケティング施策を実施するための指標としています。
参考: HubSpot マーケティングブログ
この新規顧客獲得費用の上限設定については、取り扱うサービスによっても大きく異なってきます。単価が安いtoC向けの消費財などでは、「LTV × 粗利率 = 上限金額」といった簡単な算出式となるケースもあります。
LTVアップで得られる効果
一般的に、新規顧客を1件獲得するコストは既存顧客と関係を保つためにかかるコストの4~5倍必要になると言われています。成長著しい市場は新規顧客の獲得に成功した時の爆発力も大きいものの、競合他社との競争も激しく、リスクが高くなりがちです。
市場の発展がゆるやかになった時に、企業がどのように成長を続けていくかという観点からマーケティング施策を行うことも重要です。新規顧客の増加スピードが落ち着いても既存顧客のLTVを向上させることができれば、企業は安定した成長を続けられます。
LTVを最大限に高める5つのポイント
LTVの算出式は、例えばtoB SaaS商材の場合だと「平均顧客月額単価」「平均継続期間」「売上総利益率」、toC商材の場合だと「平均顧客単価」「購入頻度」「継続購入期間」といったように、複数の要素で構成されています。したがって、各要素の質を高めることがLTV向上の近道となります。ここでは、LTVを最大限に高める5つのポイントをご紹介します。
1.商品単価を値上げする
平均顧客単価を上げる最もシンプルな方法です。商品単価の値上げは、材料費高騰などの「外的要因による値上げ」と、企業側の方針による「意図的な値上げ」の2パターンにわかれます。ここでは、LTV向上を目的とする「意図的な値上げ」の観点からご説明します。
商品単価の値上げを検討する場合、やるべきことは2つあります。1つは顧客に値上げの理由を説明すること、もう1つは値上げした商品の品質向上をアピールすることです。とりわけ前者は重要であり、値上げに関する十分な説明がなければ顧客の信頼を失いかねません。
現実的には「顧客離れが心配で値上げできない」という企業が大半です。しかし、単価を改訂したうえでも自社を選んでくれる優良顧客は一定数存在します。多少の顧客離れが発生しても、後に残るのはエンゲージメントの高い顧客のみです。一見リスキーに感じますが、顧客の納得さえ得られるならば問題なく実施できます。
2.商品原価を抑える
商品原価は最終的な収益率に直結します。たとえ商品単価を値上げしても、商品原価を抑えられなければ十分な利益は得られません。
商品原価を抑えるポイントは、「材料費」「人件費」「各種経費」の3つを削減することです。とりわけ材料費は商品原価の4割~6割を占めます。複数の仕入れ業者に相見積もりを取り、場合によっては価格交渉を行います。材料費の最適化を行うことで、次第に商品原価も抑えられます。
3.商品ラインナップの拡充
有名なビジネス心理学のひとつに“松竹梅の法則”があり、これを利用して平均顧客単価を上げることが可能です。まず、メインで売り出したい既存商品のほかにその上位モデルと下位モデルを用意します。“松竹梅の法則”においては、安価な下位モデルを「梅」、メインモデルを「竹」、高価な上位モデルを「梅」と位置付けます。
このような商品ラインナップで展開すると、最も売れやすいのはメインモデル、次いで上位モデルとなります。なぜなら、商品を手に取った顧客に「安いのは魅力だけど、品質は落とせない」という消費者心理が働くためです。結果的に平均顧客単価が上がるほか、顧客側には複数の商品を比較検討できるメリットが生まれます。
参考:ビジネス思考への転換
4.セット商品を販売する
同時購入される機会の多い商品やオプションプランは、セット形式で販売することをおすすめします。一度に複数の商品(プラン)を販売できるため、平均顧客単価が向上します。
複数商品(プラン)のセット販売は顧客側においてもメリットがあります。欲しい組み合わせや同時利用に適した組み合わせを個別に購入する手間が省け、購入時の負担が軽減されます。なお、本来の商品とは無関係なものをセット販売すると、抱き合わせ商法”と捉えられる可能性があります。独占禁止法違反に接触するため、不当なセット販売を行ってはいけません。
5.リマインドメールやメルマガを配信する
toC系商材の場合だと、購入頻度および継続購入期間の向上には、メルマガなどのメール施策が有効です。例えば、家電製品の買い換えを検討する顧客に対し、自社商品の購入を促すリマインドメールを配信します。顧客側からすると、今欲しい情報を最も欲しいタイミングで得ることができます。リマインドメールを活用したフォローにより、引き続き自社商品を選んでもらえる可能性が高まります。toB系商材の場合でも、活用されずに契約解除されてしまうことを防ぐために、定期的な顧客との接点として、商品やサービスの活用方法を伝えるための手段として、メルマガを活用する事例も増えてきています。
メルマガ配信などの定期的なメッセージを通じて、顧客を自社商品やサービスのファン化することも重要です。ロイヤリティの高い顧客ほど、継続購入期間が長くなる傾向にあります。自社商品の紹介を筆頭にお役立ち情報などをコンテンツとして配信し、顧客との良好な関係を築いてください。
6.CRM(顧客関係管理)システムの活用
顧客情報を管理する「CRMシステム」を導入すると、顧客の個人データや購入履歴、問い合わせの詳細、参加したセミナーの情報など、顧客と企業間のあらゆる接地点をまとめて管理できます。CRMは「Customer Relationship Management(カスタマー・リレーションシップ・マネージメント)」の頭文字に由来しており、日本語に直すと「顧客管理」という意味です。顧客情報を可視化できるので、上手く活用できると顧客に対して効率的に次のアプローチがはかれます。
過去の情報を蓄積・分析すると、自社にとってより有効な営業方法が明らかになり、成約につながりやすいマーケティングを行えます。顧客が何を求めているのかを知りニーズに合わせた営業展開を進めるうえで、CRMシステムの活用は非常に有効です。
CRMと同様に顧客管理において重要な、MAツールについての関連記事はこちらをご覧ください。
関連記事はこちら顧客管理を簡単にする?マーケティングオートメーション(MA)ツールのススメ
MAとCRM、SFAの違いについて知りたい方はこちらの記事もご覧ください。
関連記事はこちらMA・CRM・SFAの違いとそれぞれの役割とは?
LTVとCRM施策について
1人あたりの取引合計額で算出されるLTVが注目を集めるようになった理由には、CRMシステムの台頭が大きく影響しています。これまで新規顧客の獲得や見込み客のフォローは、それぞれの営業担当が自身のスキルを使って手探りで進めていました。しかしCRMシステムの登場により、現代における営業活動は明確なデータ分析に基づいて進める形に様変わりしています。
かつては営業担当ごとにしか持ち得なかった各顧客のデータを統合して共有できるため、1人の担当に依存するのではなく、部署や企業全体で顧客の分析が可能になりました。その結果企業全体で顧客の特性を深く理解できるようになり、良好な関係性を築いてさらなる利益の追求が可能になる好循環が生み出されています。
また、CRMシステムを活用すれば「優良顧客」「契約の見込みが高い」「要フォロー」などのランク分けをすることにより、段階に応じた効果的なアプローチで成約率を上げられます。優良顧客がどのような行動パターンで商品の利用や購入を決めているのかを分析すると、マーケティングの質を高められます。CRMシステムは、今やLTVを高めるうえで必要不可欠なツールになりつつあるのです。
新たな顧客を獲得するのが難しいからこそ、既存顧客との関係性を深める営業施策は重要です。継続的に取引のあるLTVの高い顧客は、企業にとって今後も友好な関係を築いていきたい大切な存在となります。
最近では、SNSなどのソーシャルメディアを通じたCRM施策を積極的に取り入れる企業もみられるようになりました。顧客は企業がSNS上で発信する商品やサービスの情報をもとに、購入や利用の是非を判断します。SNSの拡散力の高さを上手に活用すれば優良な口コミやキャンペーン施策、イベント情報などが多くの人の目に触れるため、少ないコストで高いプロモーション効果を期待できます。とはいえ、SNSではネガティブな反応もすぐに広まってしまうというリスクもあるため、注意が必要です。
まとめ
今回は、LTVの基礎知識などをご紹介しました。LTVは今日のマーケティング領域における重要指標であり、その数値が事業利益を左右するといっても過言ではありません。また、サブスクリプションというビジネスモデルが一般的となりつつある昨今では、LTVを考慮したマーケティング戦略は常識となりつつあります。本記事でご紹介した方法を参考に自社のLTVを最大限に高め、より多くの利益を追求してください。
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