顧客エンゲージメントとは?注目される理由と向上のメリットを解説
サービスや製品のコモディティ化(差別化が難しい状態)が進む現在、企業の競争力を左右する「顧客エンゲージメント」に注目が集まっています。今回は顧客エンゲージメントについて、注目される理由や向上させるメリットを踏まえてご紹介します。
目次
顧客エンゲージメントとは
顧客エンゲージメントとは、企業と消費者の関係性や親密度を示す概念です。エンゲージメントは直訳で「婚約」「契約」「成約」を意味する言葉ですが、マーケティング・広報領域においては意味合いが変わります。
一般に「顧客エンゲージメントが高い」とされる企業は、顧客からの信頼を得ている状態にあります。
ブランドやサービスへの愛着度が高く、競合他社への乗り換えなどを行うことが少ないため、顧客と企業の間に良好な関係が構築されているといえるでしょう。このような消費者との深い関係性を構築するマーケティング戦略は「エンゲージメントマーケティング」と呼ばれます。
エンゲージメント・ロイヤルティ・顧客満足度の違いとは
エンゲージメントと混同される指標として、「ロイヤルティ」と「従業員満足度」が挙げられます。ここでは、各指標の特徴とエンゲージメントとの違いをご紹介します。
エンゲージメントとロイヤルティの違い
エンゲージメントは、企業と顧客が双方向の関係性にある状態となります。主導権はお互いが握り、立場においても基本的には対等です。
一方ロイヤルティ(Loyalty)は、「忠誠心」「忠義」といった意味を持つ語句です。顧客が企業やブランドイメージに好ましい感情を持っているか、商品やサービスにどのくらい信頼を寄せているかの度合いを示す指標として用いられます。
顧客エンゲージメントが企業と消費者間の関係性全体を表す指標なのに対して、ロイヤルティはあくまでも消費者がサービス・製品に抱く愛着度を推し量るために用いられる考え方です。
ロイヤルティを調査する際にはNPS(ネットプロモータースコア)という、「ユーザーが企業のサービスや製品を知人に進める可能性がどれほどあるか」という質問によるアンケートの結果に基づくスコアリングをもとにします。
一方顧客エンゲージメントは、実際の消費者が起こす商品選定から購買に至るまでの行動全体をもとにして考えられます。
なお、現代ではロイヤルティよりもエンゲージメントの向上に取り組む企業が増えています。これについては、下記で詳しくご紹介します。
エンゲージメントと顧客満足度の違い
顧客満足度とは、顧客が製品やサービスに対してどれほど満足しているかを推し量る指標です。
エンゲージメントと顧客満足度は似て非なるものであり、度々混同されます。この2つの明確な違いは、評価が向けられる対象にあります。
顧客満足度は、あくまでサービスや製品に対する消費者の評価です。提供企業全体への評価とは必ずしもつながりません。
それに対して顧客エンゲージメントは「企業と消費者の関係性」を表す概念であるため、サービスや製品の直接的な利用者以外との間にも存在します。
顧客エンゲージメントが注目される理由
ここでは、顧客エンゲージメントが注目されるようになった理由を3つの観点からご紹介します。
コモディティ化が進行している
コモディティ化とは、市場において競合他社同士の製品の差別化が難しくなり、価格や購入しやすさが重視されるようになる現象のことです。市場に参入した当初は付加価値の高い製品だったものが、競合他社の参入や技術力の向上によって普遍的な製品となってしまい、独自性が失われていくことを指します。
従来の社会では高品質・低価格のサービス提供を行っていれば自ずと多くの顧客を集めることができましたが、現代では消費者の購買プロセスが多様化し、技術発展により製品やサービスのコモディティ化(一般化)が進んでいます。
企業が市場でシェアを獲得するためには、独自性を押し出して顧客に自社製品のメリットをアピールする必要があります。そのため、他社と明確な差別化がしにくくなった市場では売上を確保しにくくなり、シェアを奪われたり売上が下降したりする可能性が高まるといえます。
購買プロセスが変化している
顧客の購買プロセスが変化していることも、顧客エンゲージメントが重視されるようになった理由のひとつです。
インターネットの発展により、以前とは比べものにならないほど消費者側が保有する情報量が増加しています。従来の購買チャネルであった実店舗や商談などに加え、ECサイトやオンライン広告などさまざまな購買プロセスが生まれ、デジタル領域を中心に消費者の購買行動も多様化を遂げています。
インターネットやスマートフォンの普及を契機として、顧客は自ら商品の情報を収集して比較・検討し、購入する商品を決めるようになりました。営業担当者から勧められた商品をそのまま購入するといった意思決定は減少しているため、顧客が情報収集を行う段階から積極的にコミュニケーションをとり、自社の製品に興味・関心を持ってもらう必要が生じているといえます。
ニーズの多様化
あらゆる情報があふれている現代、顧客は膨大な選択肢から購入する製品を比較・検討できます。ユーザーレビューなど目に見える評価がインターネット上に掲載されるようになったこともあり、情報を取捨選択しながら自身のニーズに合わせて最適な製品を選ぼうとする顧客が増えているといえます。
このようなニーズの多様化も、顧客エンゲージメントが注目を集めるようになった理由です。
顧客エンゲージメント向上のメリット
顧客エンゲージメントが注目されている理由が整理できたところで、エンゲージメント向上に取り組むメリットをご紹介します。
集客やビジネスの成果向上につながる
前述のとおり、現代では消費者側がインターネットなどを通して多彩な情報を獲得でき、さまざまな購買プロセスを経て製品やサービスを利用するようになりました。そのため、従来のような方法で十分な成果を挙げることは難しいといえるでしょう。
そこで顧客エンゲージメントの向上に取り組み、消費者と良好な関係性を構築して製品やサービスの利用を促進することが重要です。結果的に競合他社との差別化をはかることができ、より多くの顧客を獲得できるようになり得ます。
製品購入のリピート率やサービス契約の継続率といった直接的な指標にも、企業への好感度や信頼感は大きく寄与すると見られています。
もちろん、単に好感度を高めるだけが集客やビジネスの成果を直接押し上げるわけではないものの、コモディティ化が進む今、他社に打ち勝つには見逃せない点であるといえるでしょう。
顧客の口コミやインターネット上での情報拡散で、プロモーション効果が強化される
顧客満足度と顧客エンゲージメントの差異についても前項で解説しましたが、エンゲージメントの強化によって消費者からの好感を集めれば、口コミやSNSなどの情報拡散を通してさらなるPR効果を見込めます。
企業への信頼感を得た消費者が、サービスや製品に対しても好感や信頼を抱き、周囲の人々へその魅力を拡散していくという流れはデジタル時代のプロモーションでは無視できない要素です。
顧客エンゲージメントの向上に取り組むことで、より多くの消費者を顧客へと育成できる可能性があります。
顧客からのフィードバックを得られる
顧客と密にコミュニケーションをとって関係性を深めることができれば、自社の商品やサービスに対する顧客からのフィードバックを得られるようになります。
顧客からの直接的なフィードバックは、今後の商品開発やマーケティング施策の方向性を定める上で重要な判断材料です。フィードバックを事業に積極的に取り入れることで、より良い商品やサービスの提供にもつながります。
市場において競争力が高まる
顧客エンゲージメントが高まることによって、顧客が積極的に自社の商品を購入してくれるようになり、市場において競争力が高まります。
競争力の向上は売上の拡大にも直結し、売上が拡大すればより潤沢に事業へ投資できるようになるでしょう。結果的に、さらに競争力の向上が期待できる良い循環を生み出せます。
顧客エンゲージメントを高める5つのポイント
ここでは、顧客のエンゲージメントを高める3つのポイントをご紹介します。広報・マーケティング担当の方はぜひ参考にしてください。
1.消費者の購買プロセスをカスタマージャーニーで想定し、感情を分析する
カスタマージャーニーとは、ペルソナ(サービスや製品を利用すると想定されるターゲットを詳細に想定した架空の人物像)が辿る購買プロセスを時系列順に見える化するマーケティング手法です。
年齢や性別、収入といった基本的な要素から悩みや解決したい事柄、性格といった感情に関する要素までを細かく想定した上で、どのようなプロセスを経て購買に至るのかを複数のステップに分けて考えます。
その中で、たとえば「そもそも製品やサービスの必要性に気づいていない段階」「購買の検討段階」「比較段階」など、それぞれの段階で生まれる企業と消費者の接点を考え、適切なマーケティング施策を実施していきます。
とくに製品やサービスの比較段階、購買するしないを検討する段落において、顧客エンゲージメントを強化しておけば競合に対する優位性を獲得できるでしょう。
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2.顧客の行動をデジタル化して分析する
既存顧客が「どのような行動を経て購買や契約に進んでいるか」をデジタル化して分析することも、顧客エンゲージメント向上のために重要なポイントです。
従来では、マス・マーケティングと呼ばれる企業から消費者に対する一方的なPRによるアプローチが主流でした。しかし現在では、ユーザーの行動を細かくターゲティングできるWeb広告やSNS広告などが主流のPR戦略として各企業で採用されています。
これらは多くの場合、ユーザーの行動データを細かく追跡し、定量的に分析する機能を備えています。
顧客データに基づき購買に至った理由を分析していくことで、どうすれば購買エンゲージメントを高められるか、どんな要素がエンゲージメント向上に寄与しているかを判断することがポイントです。
この際、顧客満足度を推し量るために用いるアンケートの集計などもあわせて行うとより正確なデータを得られるでしょう。
3.個客との接点を持ち、検討タイミングを伺う「リードナーチャリング」を意識する
リードナーチャリングとは、継続的にお客様に有益なコンテンツを提供して接点を持ち続け、検討タイミングを伺うことで、「見込み客」を見つけるマーケティング手法です。実際にサービスや製品を利用する以前の段階に位置する顧客に対して、メールやSNS、各広告などを介して有益な情報や魅力を発信します。つまり、中長期的に潜在的ニーズを抱える層を顕在層へと育成していくプロセスを指します。
顧客エンゲージメントの向上とともに現代のプロモーション手法として重要視されている戦略ですが、両者は切っても切れない関係であるといえます。
顧客エンゲージメントを向上させるために、継続的に顧客へ有益な情報を提供しながら顧客の検討タイミングを伺い、期が熟した「見込み客」を見つけるのがリードナーチャリングの目的です。そうすることで顧客も有益な情報を提供してくれる企業に対して信頼感や好意を抱くようになり、検討タイミングが熟した際には「見込み客」としてサービスや製品を選んでもらえる可能性が高まります。
関連記事はこちらリードナーチャリングとは?具体的な実践方法を5つのステップでご紹介
4.自社メディアやSNSで情報発信を行う
自社が持つWebサイト、ブログ、パンフレットや情報誌など、情報を発信する媒体を「自社メディア」と呼びます。「オウンドメディア」と表現される場合もあります。
自社メディアは情報をどのように発信するか、どのような内容を伝えるかを他社が介在することなく決められるので、自由度の高い点が魅力です。ユーザーが興味を持ちそうな情報をWebサイトに掲載したり、お役立ち記事をブログにアップしたりすることで、継続した訪問につながります。こうして何度も自社のコンテンツに接してもらううちに、親しみを持ってもらえるだけでなく、顧客エンゲージメントの向上も期待できます。
一方、「アーンドメディア」と呼ばれるSNSを通して情報を発信する方法もあります。SNSは多数のユーザーにアプローチできる可能性があるため、オウンドメディアとは異なる魅力があります。ターゲットを明確に定めて、投稿を目にした人が思わず共有したくなるような情報を発信するように心がけましょう。
5.メールマーケティングで情報発信を行う
メールによって自社の商品・サービスを深く知ってもらうことで、購入につなげるマーケティング手法を「メールマーケティング」と呼びます。この手法では、読者の興味・関心を引き付けるようなタイトルや内容の電子メールを作成し、あらかじめ決めておいたターゲットに対して一斉送信する方法が一般的です。
そのほかのメールマーケティングの手法には、定期的に自社のコラムや商品情報などを発信する「一斉配信メルマガ」や、決められた日程間隔で、複数回にわたりアプローチしていく「ステップメール」、ユーザーが興味を持っている商品をピンポイントで紹介できる「リターゲティングメール」などがあります。拡散により短期的に効果が出やすいSNSに比べると、成果が出るまでにはある程度まとまった期間が必要になる傾向にありますが、自社のファンを育てる上ではとても有効な手法でしょう。
メールマーケティングについてはこちらの記事もご覧ください。
関連記事はこちらメールマーケティングとは何か?基礎知識や開始ステップ・メリットを解説!
まとめ
今回は顧客エンゲージメントが近年注目されている理由、エンゲージメントを高めるためのポイントなどをご紹介しました。
サービスのコモディティ化が進む現在、競合他社との差別化をはかるにはプロモーション戦略の優劣が大きく関わります。この記事を参考に、ぜひ消費者との良好な関係性構築を目指してみてください。