ABMとは?注目の背景やメリット、導入ステップを徹底解説!
ABM(アカウント・ベースド・マーケティング)は、近年注目されているマーケティング手法のひとつです。しかし、導入によってどのようなメリットがあるのかわからないという方も多いでしょう。そこで今回は、ABMの概要やメリット、具体的な導入ステップを解説します。
目次
ABMとは
ABMとは、「Account Based Marketing(アカウント・ベースド・マーケティング)」の頭文字から取られたマーケティング用語です。BtoBを主体にビジネスを営む企業における「自社に利益をもたらす顧客を選び、顧客別に効果的なアプローチをするマーケティング手法」のことを表します。
ABMは以前から存在するマーケティング手法ではありましたが、経営に取り入れるには膨大な工程がかかるため、 実際に効果的な運用を実現できている企業は多くありませんでした。 しかし、近年ではMAツールやSFAなどの営業活動を効率化させる様々なツールが登場したこともあり、ABMを効果的に運用するための土壌が整備されつつあるといえます。
ABMが注目されている理由
近年ABMが注目されている理由は、ITツールの進歩以外にも存在します。主に次の3点について詳しくご紹介します。
MAの進歩
前述したように、近年はMAツールやSFAをはじめとした営業活動を効率化するためのツールが数多く登場しています。
従来は自社にとって価値の高い企業を選り分けたり、顧客別のきめ細かなアプローチを行ったりするためには膨大な工数を必要としましたが、近年ではITツールの利用によってこれらの工数を大幅に短縮できるようになりました。自社にとって有益な顧客を選び抜くことができるMAの進歩は、ABMを実現させるにあたって大きな役割を果たしているといえるでしょう。
特に顧客管理ツールであるCRMが広まりつつあり、ビジネスにおいてLTVの考え方を重視する企業も増えてきました。 「顧客が一生のうちに企業にもたらす価値」を意味するLTVを向上させるためには、自社のターゲットとなる企業に合わせた効果的なアプローチが重要になります。
事業部制による機会損失
ABMが注目されている2つ目の理由に、事業部制による機会損失があります。
事業部制によって運営されている企業は、事業部ごとに各々の仕事を完結させるケースが一般的です。それにより、社内でもある事業部でなかなかアプローチが上手くいかないと思っていた顧客が、他事業部ではすでに良好な関係を築いて取引を開始しているといった事例もあります。
事業部制の採用によって発生する機会損失をMAツールやSFA、CRMなどを駆使して解消し、ABMにつなげる考え方が注目されてきているといえます。
取引先との関係性の変化
取引先との関係性が従来とは変化してきていることも、ABMが注目されている理由のひとつです。
従来の日本企業は、「顧客第一主義」という言葉を「顧客のために一心に尽くす姿勢を見せる」という意味合いで使っているケースが多かったといえます。
しかし、近年は「顧客目線でニーズを捉えた製品やサービスを提供すること」こそが顧客第一主義であるという見方がされるようになったこともあり、取引先に対して一方的に尽くすのではなく、対等なパートナーとして歩んでいく企業が増えています。
自社の業績に良い影響をもたらしてくれる顧客を企業が選べる環境が整ってきていることと、「企業ごとに適したマーケティングを実施する」というABMの考え方が合致しているといえます。
ABMが効果的な4つの活用先
ABMが特に効果的な活用先として、次の4つが挙げられます。
新規顧客への販促
現状においては、日本におけるABMは新規顧客への販促を中心として広く取り入れられています。
新規顧客への販促にABMを活用するには、マーケティング活動を行いたいターゲットの業界と近い業界の既存顧客の事例にならって進めるのが一般的です。既存顧客が業界において注目される存在であれば、新たに販促したい新規顧客も既存顧客に注目している可能性が高いため、持ちだした事例に興味を持ってもらいやすくなるからです。
ABMでは自社にとって利益の見込める顧客を絞り込み、ターゲットとなる企業を自ら選定できます。そのため、既存顧客との現行の取引を成功事例として新規顧客に紹介し、アプローチ材料として活用できそうなターゲットを選定することもおすすめです
関連記事はこちら潜在顧客と見込み顧客の違いを解説!見つけ方やアプローチ方法も紹介
既存顧客の深耕
既存顧客の深耕も、ABMが活躍する分野のひとつです。
既存顧客の一部の事業部に自社の製品やサービスを提供している状態で、その他の事業部に対して展開を広げていくことは売上を高める上で効果的といえます。
ABMは企業ごとに顧客情報を押さえることから、企業全体を統括する部門や人物を発見して友好関係を築き、既存の導入事例を社内のほかの事業部に広げていく際にも効果を発揮します。
新製品の販促
新製品の販促を行う際にも、ABMは役立ちます。
企業が提供する新製品のほとんどは、既存製品の効果・効能をカバーした上で性能を強化しているといえます。そのため、既存顧客に新製品を導入してもらうことによって、既存顧客に高い利便性を提供すると同時に、自社の売上アップも期待できます。
ABMはすでに取引を行っている企業に対してアプローチすることに長けているため、既存製品の効果・効能を引き継いだ新製品の販促には高い効果を発揮します。
既存製品の強化
ABMは、既存製品の強化にも有効です。ABMは顧客の購入履歴や好みを企業全体で把握することから、既存製品への意見・要望を取りまとめてサービス強化や改良をはかることが可能になります。詳細な利用状況を調査した上で、オプションの追加契約などによって売上を高めることもできるでしょう。
このような取り組みは、顧客が自社の製品やサービスを利用して成果を上げることによって顧客満足度を向上させ、自社に対する信頼を獲得する「カスタマーサクセス」としても注目されています。
ABMを導入するメリット
ABMを導入することによって、企業にはさまざまなメリットがもたらされます。ここでは、代表的な4つのメリットについて解説します。
マーケティング活動を効率化できる
ABMのひとつ目のメリットは、マーケティング活動を効率化できることです。
ABMは自社にとって価値の高い顧客を選別するため、アプローチの優先順位が高い顧客にリソースを集中できるようになります。結果として、マーケティングの効率を高めることができます。
効果測定が容易
効果測定が容易なことも、ABMのメリットのひとつです。
ABMは顧客単位で効果測定を行うため、メールマーケティングや広告出稿、オウンドメディア、セミナーなど、さまざまなマーケティング活動の効果を明確に測定でき、改善もしやすいといえます。
高いROIが期待できる
効率的にABMを運用できれば、高いROI(投資利益率)が期待できるのもメリットといえるでしょう。
ABM Leadership Allianceが行った2020年の調査によれば、「ほかのマーケティング手法に比べて、ABMはROIが高いか」という質問に対して、76%ものマーケティング担当者が「とても高い」または「やや高い」と答えています。この調査からみても、「ABMを活用して実施したマーケティング活動は、その他のマーケティング活動よりも高いROIが表れると感じているマーケティング担当者が多いことがわかります。
部門間の連携がスムーズになる
部門間の連携がスムーズになることも、ABMのメリットです。
ABMでは、マーケティング部門においても営業部門と同じような考え方で顧客にアプローチを行うようになります。マーケティング部門と営業部門が顧客に対して共通した考え方を持つようになることから、部門間の意思疎通がはかりやすくなり、さらに効率的に売上を上げられるようになるでしょう。
ABMの戦略策定に有効なフレームワーク
ABMの戦略策定に高い効果を発揮するフレームワークとして、3C分析、STP分析、5フォース分析の3つの分析方法をご紹介します。
3C分析
3C分析とは、企業全体のマーケティング戦略の方向性を定めるために使用する分析手法です。「Customer」「Competitor」「Company」の3つのCから名付けられており、顧客・市場、競合、自社の3つの領域を掘り下げて分析を行います。
「Customer」の分析においては、最初に参入しようとしている市場の規模や成長性を徹底調査し、ターゲットを明確に設定します。自社の製品やサービスによって顧客のニーズを満たし、課題を解決できるかどうかを中心に分析することが大切です。
「Competitor」では、競合他社の分析を行います。市場に存在する競合他社の数や、競合他社が所有する製品やサービスの強み・弱み、市場への参入のハードルなどを分析して、市場における自社の立ち位置を把握します。
「Company」では、自社の戦略を策定します。事前に実施した「Customer」と「Competitor」の分析も参考にしながら、市場においてどのような方向性で事業を進めていくのかを決定します。
関連記事はこちら3C分析のプロセスやメリット、分析のポイントについて解説
STP分析
STP分析は、「Segmentation(セグメンテーション)」「Targeting(ターゲティング)」「Positioning(ポジショニング)」の3つの分析から成り立つ分析手法です。ABMにおいて、STP分析は必要不可欠であるともいわれています。
「Segmentation」のフェーズでは、参入する市場に存在している顧客を年齢や性別など複数のセグメントで分類します。その後、切り分けたセグメントのなかからどのセグメントをターゲットにするかを決めるのが「Targeting」です。
ターゲットを選定できたら、「Positioning」のフェーズでターゲットにどのような方向性でアプローチするのかを決定し、競合他社との差別化をはかります。
5フォース分析
5フォース分析とは、「売上を上げられるかどうかは、参入する業界によって決まる」という考えから提唱された分析手法です。マイケル・ポーター氏という、アメリカの経済学者によって発案されました。主に競合分析や業界分析で高い効果を発揮します。
5フォース分析においては、「買い手の交渉力」「売り手の交渉力」「業界内の競争」という3つの内的要因に「新規参入の脅威」「代替品の脅威」の2つの外的要因を加えた、合計5つの要素を業界の競争要因と位置づけています。
ABMを導入するためのステップ
メリットやデメリットがわかっていても、実際にABMを導入するためにはどのような準備を行う必要があるのかわからないという方も多いでしょう。
ここでは、ABMを導入するための具体的な8ステップを順番にご紹介していきます。
1.ABMが必要かどうか検討する
ABMを導入する前に、まずは「ABMを本当に導入する必要があるのかどうか」を十分に検討することが大切です。業種や業態によってはABMと相性が合わないことも考えられるため、自社にとってABMが売上を向上させるための戦略として有効なのかどうかを調査する必要があります。
自社の事業目標とABMの戦略を照らし合わせて、どのくらい売上を向上させたいのかの目標を設定した上で、自社の事業目標から外れておらず、売上向上にも貢献できると判断されれば、ABMを採用しても良いでしょう。
2.戦略の方向性を定める
ABMの戦略を策定する際は、マーケティング部門と営業部門が連携して戦略の方向性を定めることが大切です。その際、企業に対しての一貫した顧客体験「ABX(Account Based Experience)」を念頭に置くようにしましょう。双方の部門が独立してアプローチするのではなく、LTVを意識した上で全社的に一貫した計画を打ち出すことが重要になります。
3.プロジェクトチームを立ち上げる
ABMを実施する際は、関連する部署から人材を集めてプロジェクトチームを立ち上げることをおすすめします。マーケティング部門と営業部門だけではなく、全社的に関連する人材を集めることで、より効率的にABMを運用できる可能性が高まります。ABMを取り入れることによる最終的な売上目標やLTVへの影響を経営層に丁寧に説明することで、ABM導入への賛同を取りつけやすくなるでしょう。
4.営業部門と連携する
ABMを行う際は、関係部門の連携が非常に重要になります。マーケティング部門主体でABMを発案するのであれば、営業部門に対して「なぜABMを実施する必要があるのか」をわかりやすく説明して賛同を得てから、スムーズに連携できる体制を構築することが大切です。
マーケティング部門と営業部門でアプローチの方法が食い違うことのないように、アプローチの優先順位や共通目標などの指標をあらかじめ設定しておくことをおすすめします。
5.顧客と意思決定者を洗い出す
社内でABM運用への合意が取れたら、顧客と意思決定者を選定します。まずは自社にとって価値の高い顧客はどのような顧客かを総合的に判断して、アプローチする顧客を決定しましょう。一般的に価値が高い顧客は、「取引額が大きくなる可能性が高い」「市場に大きな影響力を持ちうる」「リピーターになる可能性が高い」などの基準で判断されることが多いといえます。
選定した顧客から、自社の製品やサービスを提供して獲得できる市場規模も予測しておくことが大切です。受注できる確率を想定した上で、収益がどのくらいになるのかを試算しておきましょう。ABMにおいては、全社的にデータを管理する必要がある大手企業がターゲットになるケースが多いでしょう。中小企業などのマーケティング活動においては、データを全社的に統合管理する必要があまりないためです。
ターゲットを選定したら、意思決定者やインフルエンサーが誰なのかも明確にしておく必要があります。調査方法は営業部門に依頼する方法や、外部企業からデータを購入する方法などが考えられます。
6.コンテンツとチャネルを決める
顧客と意思決定者の洗い出しを終えたら、コンテンツとチャネルの決定に移ります。自社の製品やサービスを通じて顧客にどのようなメリットを提供できるのかを振り返って、顧客に合わせたアプローチ方法を考えます。
ターゲットにアプローチする際は、ターゲットの役割や業界に合わせて効果の高いチャネルを選定することも重要です。チャネルはメールや電話、オウンドメディアなど複数あるため、どれが最も適しているのかを慎重に検討しましょう。
7.キャンペーンを実施する
コンテンツとチャネルを決めたら、具体的にキャンペーンを実施していきます。ターゲットの意思決定者に自社の製品やサービスの魅力を伝えるべく、受注に結びつけるようなマーケティング活動を行いましょう。必要に応じてMAツールやSFA、CRMなどのITツールも積極的に取り入れることをおすすめします。
8.効果測定と改善を行う
ABMは、定期的に効果測定と改善を行うことが大切です。効果測定の結果に基づき、最初に策定した戦略が期待どおりの成果を上げられているかどうかを確認して、必要であれば施策を改善していきます。
ABMにおいてはマーケティング活動そのものの成果だけではなく、ターゲットの意思決定者と十分に接触できているかどうか、収益が十分に上がっているかどうかなども把握することが大切です。
まとめ
ITツールが発展した現代においては、自社にとって価値の高い顧客を選別してアプローチするABMを導入しやすい土壌が整いつつあります。自社にとってABMが適していると判断されたら、ぜひ積極的にABMを運用してみましょう。
ABMの運用を成功させるためには、全社的な協力が必要不可欠です。マーケティング部門だけで準備を進めるのではなく、営業部門やその他の関連部門とも協力して、社内全体の理解を得ることが大切です。